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ひとりで入れない店 [本]




 ひとりでは入らない、と決めている店がある。
 愛らしい雑貨を並べている店でもなく、かぐわしい香りを放つパン屋でもなく、いわくありげな呑み屋でもない。古ぼけた雑居ビルの一角、頼りなげな灯りが却って妖しくほの暗く感じられるそこはとある書店である。狭い間口から想像できないくらいに広いけれどそれでも大手の書店と比べるべくもない店内には書棚が林立し迷路をなし、在庫保管用の引出しを取り払った棚には床ぎりぎりの低いところからぎっしりみっしりと商品が並んでいる。
 ひとたび店内に足を踏み入れればそこは天国。ああ、すばらしい。まだ出会っていない本がこんなにたくさん…!

 などと頬も財布の紐も緩んでしまうからしてひとりでは行けないんである。
 どうしても我慢できないときは家族に連れて行ってもらう。拙宅のオトコ衆は「買うな」とはまず言わない。それでも私は気が緩むと腕が抜けそうなくらい本を抱えてしまっている。そんな時、彼らの姿が視界に入ると正気に戻れるんである。

 ところで今回泣く泣くあきらめた本。
 こちらは私が読んでもきっと理解できないに違いないから。抑え難し、数学への憧れ。

虚数がよくわかる―”ありもしない”のに、難問解決に不可欠な数 (Newton別冊)

虚数がよくわかる―”ありもしない”のに、難問解決に不可欠な数 (Newton別冊)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ニュートンプレス
  • 発売日: 2009/07
  • メディア: 大型本



 買うかどうか、真剣に迷ってしばし立ち読みしてしまった。よそ様のお夕飯メニューが気になるのに近い感覚でこの本を欲しているように思えて煩悩を断ち切る。しかし、未練たらたら。

信長のおもてなし―中世食べもの百科 (歴史文化ライブラリー 240)

信長のおもてなし―中世食べもの百科 (歴史文化ライブラリー 240)

  • 作者: 江後 迪子
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本



 愚息向けに、と称してよっぽど買ってしまおうかと思ったのだが、こういうものを親が買い与えるとまず間違いなく読まないのであきらめた。「私が読みたいんだから買うんだ」と開き直れないオノレの小心さと甲斐性のなさに泣いた。

中学生からの哲学「超」入門―自分の意志を持つということ (ちくまプリマー新書)

中学生からの哲学「超」入門―自分の意志を持つということ (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 竹田 青嗣
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/07
  • メディア: 新書



 なぜ買うのをためらったのか自分で自分を理解できない。まず間違いなく家族全員で楽しく読めた(そして費用対効果の高い一冊となった)であろうに!

星間商事株式会社社史編纂室

星間商事株式会社社史編纂室

  • 作者: 三浦しをん
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/07/11
  • メディア: 単行本



 読みたいよう。買わなかったことを腹の底から後悔している。

吉田初三郎の鳥瞰図を読む

吉田初三郎の鳥瞰図を読む

  • 作者: 堀田 典裕
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2009/07/23
  • メディア: 大型本



 絶版すれすれのものもここに行けばあるような気がしてしまうくらい気合の入った陳列っぷりを誇る書店なのだが、こうしてあきらめたものをリストアップしてみるとさして古い本もない。大型書店でもないのに人文科学ジャンルがやたらに充実しているほかはまんべんなくそろっていて特徴もさして感じられないはずなのに、何かが違う。この書店に行くと他では目に留まらないような本を手に取ってしまうのだ。
 たぶん、この書店の平積みラインナップが独特なのだろう。ベストセラーや売れ線だけではない。美しいとは決して言えず雑然とした印象さえ与える平積みの山から、商品棚の目の高さの少し下あたりに背中でなく表紙を見せて並べられた本から「ほれほれ、おもしろいぞう」と誘う声が聞こえる。

 危険だ。やはりあの本屋は危険だ。私はその店にひとりで行かない。



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タグ: 書店
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ザリガニにしてやられたり [本]




 リアルなザリガニ、ではない。奇しくも先日は2冊続けてザリガニ関連小説を読んだ。ザリガニ小説って言っちゃっていいのかしら。だがしかしザリガニなんである。

 まずこちら。

海の底 (角川文庫)

海の底 (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2009/04/25
  • メディア: 文庫


 桜祭りの一般公開でにぎわう米軍横須賀基地。そこに海から突如、巨大ザリガニが大挙して現れ人々を襲い始める。パニックの中、退路を断たれた自衛官は救出した子どもたちとともに停泊中の海上自衛隊潜水艦「きりしお」に立てこもる…。
 こちらは『図書館戦争』シリーズで名高い有川浩氏の小説。『図書館戦争』シリーズで描かれたいかにもライトノベルらしい賑やかな恋愛模様と荒唐無稽な社会状況に魅せられたくちなんであるが、あのシリーズは硬派で緻密な設定と描写も実に魅力的であった。
 今回の『海の底』はぐっと現実に近づいている。横須賀にいきなり巨大ザリガニで十分に荒唐無稽なんだけれども、こういったパニックに対応する警察や消防、自衛隊は現実の法律や政治に縛られた人々なんである。スーパーマンが超能力ばりのパワーを発揮して超法規的措置をしたりなんかするハリウッドスタイルではない。プロとしての自負、状況を打開したい強い思いが、立ちはだかる法律と政治の壁の前で打ちのめされ歯噛みする様子が緻密に描かれていて一気読みを誘う。
 ライトノベルであることに変わりはないのだけれど、対象年齢がぐっと高くなった印象がある。警察と自衛隊だけでなく、惨劇の舞台となった横須賀基地を擁する米軍の動き、政府、マスコミ、自衛官とともに潜水艦に立てこもった子どもたちの不可解な人間関係など、状況が多角的に同時進行で描写される。職務と職分に縛られて歯噛みした経験を持つ、特に20代以降の読者にはこたえられないものがあるのではなかろうか。
 昨年JAMSTEC見学に行って「しんかい6500」を目の当たりにし、深海底の生物の標本を触りまくった私としては、巨大ザリガニの正体がつぼであった。
 もちろん、『図書館戦争』シリーズにもみられたじれじれの恋愛模様も淡いけれども健在だ。
 いきなり巨大甲殻類が大暴れ、という設定はMM9にもある。こちらもとってもおもしろい『深海のYrr』にも不気味な甲殻類が人間を襲うシーンがある。怪獣が大暴れする小説や特撮作品などのエンターテイメントにおいて本邦の作品に軍配があがる、と個人的には強く思うんであるがどうであろうか。

 そして、もう1冊。

モノレールねこ (文春文庫)

モノレールねこ (文春文庫)

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/06/10
  • メディア: 文庫


 この本は短編集である。
 帯に「ザリガニの話で泣くなんて思いもしなかった」とあるのだが、まったくもって同感である。帯のコピーは最後の一編「バルタン最期の日」を指す。小学生の男の子に偶然釣りあげられた小さなザリガニが主人公だ。不本意ながら人間に飼われ、その家族がほかのメンバーに見せないようにしている苦しみをつぶさに見続けたザリガニ「バルタン」が迎える最期。涙腺が緩むのを抑えられない。
 さりげなくも巧みなユーモアに包まれた彩り豊かな短編集である。登場人物はそれぞれに生々しい苦しみを抱えたり、あるいは苦しみに出会ったりしているが、それを決して他者にぶつけたりしない。苦しみの軽重はそれぞれであるが、ままならない事態を受けとめる人々の姿がいとおしく感じられる。
 どの話もよかったけれど、個人的には表題作の「モノレールねこ」が特によかった。



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怒濤の読書欲 [本]




 中学生は多忙だ。オノレの怠惰のツケを払っただけではあるが、やっと補習から解放された愚息は凄まじい量の宿題に追われている。「ぬおおお」という声が聞こえそうな、ある意味受験時より鬼気迫る勢いの愚息の姿を見ていると、「あの時このくらいの勢いがあれば…」という心持ちより「受験がやっと終わったってのに」とそこはかとない憐みのほうが大きくなってくる。しかし、口には出さない。宿題はみんながやってることですからね。ソレは勉強のうちに入りませんよ、くらいのことは言ってやる。一人息子を甘やかしたいという欲望は大きい。母親はツンデレのツン成分9割くらいはツンツンしてなきゃね。それでも父親の出勤を見送るついでに公園へ鳥を見に行ったり本屋へ連れて行ったりしてしまう。甘いな、私。

 そんな中、愚息の息抜きは意外なことに読書である。ほんとに読んでるのかね、とおそらく私も家人からそう思われているに違いないが、変なところだけ似て愚息も読むのが早い。怒濤の勢いで読んでいる。
 「これは、これだけは年内に読み終えるべきだ」と両親そろって熱く勧めたのがこちら。





 愚息は読後「ほう」とため息をついた。
「もう一回読んじゃおうかな。ほんとにマンガみたいに楽しいね」
 と嬉々としている。こうして今まで「ただ走ってるだけじゃん」とてんで興味を示さなかったのに、箱根駅伝を心待ちにするにわかファンがまた一人拙宅に誕生したのであった。ちなみに前年私が全く同じ経路をたどってにわかファンと化している。昔から箱根駅伝が大好きな家人はこれで大手を振ってあの白熱のレースを見られるというのでほくほくである。

 愚息からおねだりされて買ったのがこちら。
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 以前読んだ『鹿男あをによし』が相当に気に入って同じ作家のものを、と考えたらしい。映画化が決まっているらしいので文庫化を待ちたかったのだが、まあいいでしょう。
 ぐふぐふ、うっくくく、と昨年までであれば愛らしかったに違いないが今は声変わりして地を這うような低い笑い声を立てながら愚息は一気読みしてしまった。相当に面白かったらしい。愚息は気に入ると「かあちゃんも読め、早く読め」と急かす癖がある。甘やかして育てたツケがここにくるか。しかし、母とて吝かでない。現在、急かされるままに『鴨川ホルモー』を手にぐふぐふ言っているところである。


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2008年破滅SFまつりを振り返る【その2:谷甲州『パンドラ』、小川一水『復活の地』】 [本]




 前回の記事に引き続き、私を魅了した破滅SFの数々をご紹介。まずはこちら。



 文庫で全4巻、壮大かつ広範囲にわたるテーマで書かれた黙示録的SF。一気に読みきらねば科学、政治、哲学とどっさり盛り込まれたテーマに呆然として途中で読むのをあきらめてしまいそうであった。描写がきびきびとしていてよい。独特の着眼点が新鮮でおもしろい。しかも、その斬新なアイディアの数がもんのすごく多い。長編小説とはいえこんなに一作品に大量のネタを投入して大丈夫なのか、と心配になるほどの充実ぶり。SFがいくつも書けそうだもの。ただ、主人公の朝倉博士がなぜ宇宙に出ることになったのか、最後まで腑に落ちず。そりゃまあ主人公なので読んでいるうちに読者たるこちらも肩入れし、彼に地球規模の異変の謎を解かせて宇宙に出てもらいたい、と考えはするものの…うーむ。この大長編、再読の必要ありだろうか。

 以前記事で紹介したことがあるが、こちらも破滅SFのひとつだと思う。



 地球から人類が旅立ち、いろいろな星に定住した未来の世界。その星々のひとつで起こる大震災とその災害に立ち向かう人々の話だ。この作者の長編小説にはデキる男と高貴な少女の決してべたべたしてはいないけれど極甘の恋愛が織り込まれる傾向があるように思われるが、この作品も例に漏れない。それがこの作品ではストーリーにすがすがしさと切ない色合いを添えて成功している。阪神淡路大震災や関東大震災を思い起こさずにはいられない災害の描写、複雑な星間関係、政治、危機管理と緻密に構成されていてぐいぐい惹きつけられる。読後もよかった。


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2008年破滅SFまつりを振り返る【その1:フランク・シェッツィング『深海のYrr』】 [本]




 映画「地球が静止する日」の予告CM、キアヌ・リーブスのどこか人間離れした表情に見惚れつつつらつらと今年一年の読書生活を振り返ってみた。世の趨勢がどうかはともかく、私の手もとに集まった本は破滅SFが多かったように思われる。破滅SFとは、ウィキペディアSFの項によると「壊滅的な大惨事、極端な場合は人類の滅亡を描くSF」のことである。今年私が読んだ破滅SF作品を記事3回に分けて紹介しよう。

 まずはドイツで話題沸騰、『ダヴィンチ・コード』を凌ぐ人気を誇り、映画化が決定しているというこちら。



 文庫で全3巻。大作である。まず北海では無数のゴカイがメタンハイドレートに穴をあけ、南北アメリカ大陸沿岸ではクジラやシャチが船を襲い、オーストラリアでは毒クラゲが大発生、パリではシェフがさばこうとしたロブスターから殺人バクテリアが飛び散り、なんと大阪湾ではタンカーが貝にびっしりたかられる。こう書くとひとつひとつは大したことはなさそうに見えてもどかしいが、作品の中では大変なことになっている。ゴカイは大陸棚を崩壊させて大津波が発生、ヨーロッパ沿岸部が波にさらわれて都市機能が崩壊、大西洋の通信ケーブルが断絶。アメリカには殺人バクテリアを満載したカニの大群が上陸。破滅SFの王道を通り越してパニック映画レベルの大災害である。アメリカ軍が作った大規模な対策チームに招聘された研究者たちがゴカイやロブスターが遺伝子操作されていることに気づき、たどり着いた結論は…。おっとっと。『ミステリが読みたい!〈2009年版〉』海外部門第5位にランクインしているくらいなので本邦でも話題のこの作品、これから読まれる方も多いだろう。このくらいにしておかねば。
 正直なところ、上巻、中巻の途中までは読むのがつらかった。カタカナに弱いという読書好きにあってはならない私の大きな欠点もさることながら、主人公が好きになれず、読み進めるのに苦労したのだ。主人公はシグル・ヨハンソンという海洋生物学者で初老の男性なのだが、どうも、ねえ。ヨーロッパではこういうおじさんが男性の到達点として歓迎されるのかしら。女好きなのはもうどうでもいいとして、すんごくおしゃれさんなのだ。ヨハンソン博士のおしゃれぶりは前半、どんな服を着ていてどんなワインを好み、静かな湖畔の別荘でどんな音楽を聴くのかなどなど、これでもかと描写される。そして出張でヘリに乗る時にもワインだの服だのを詰めこんだでっかいスーツケースを携える。うーむ。うざったいのう。そりゃばっちいよりはさっぱりこぎれいなほうがいいに決まっているが。他にも映画を引き合いに出したり、登場人物の説明をするのに俳優の名をあげたり。もしかして作者はちょっぴりミーハーだったりするのか? まあ、私からするとこういったディティールが鼻につくが、あくまで好みの問題だ。おそらくがちがちにハードになることを嫌った息抜き要素であるのだろう。
 しかし、後半は緊迫感が増す。世界各地に起こった海の異変、登場人物の過去のトラウマ、思惑など、張り巡らせた伏線が収斂し、一気に読ませる。特にタイトルにもなっている「深海のYrr」の正体、人類の知る生物の範疇を越えた存在、そしてその意思伝達システムなど、なかなかおもしろい。クライマックス、深海で迎えるファーストコンタクトのシーンがとても美しい。


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タグ: SF 深海のYrr
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漢字でどきどき [本]




 しばらく前になるが、総理の漢字読み間違いが盛んに報道された。社会的地位の高い人のミスというのは、曖昧模糊としていても確固として存在する「かくあるべし」というイメージとの乖離が大きいだけに揶揄の対象となる。
 …ふうう。実は拙ブログを読んでいるらしい実家の父(国語教師)から「文体が軽い」との指摘を受けたことがある。自分の娘が学のない文章をwebであけっぴろげにさらしているのが耐えられないのかもしれない。ふっとそんなことを思い出したので父に敬意を表明すべく能う限り文体を重々しく、こっちこちに硬くしてみたつもりだが…200字ももたないなあ。

 それはともかく、たろーちゃんの周囲を凍りつかせる失言の数々よりは突っつきやすいこともあるのだろう。ここぞとばかりにくだんの漢字間違いは笑い話として提供されたわけだ。この上から目線なんだか下から突き上げなんだか、とにかく総理大臣たるお方にしては珍しい言説を受けて盛り上がった世の中に後押しされてか、こんな本が売れているという。





 煎じつめて平たくしちゃうと「こんな漢字も読めないのかよ」というカラーの報道がほとんどだったと思う。拙宅でも家族で苦笑とともにニュースを視聴したわけだが、内心ひやりとした方はいなかったのだろうか。私はかなりどきどきしちゃったよ。笑われても仕方ないミスばかりだったと思うが、私がひそかにどきどきしたのは「未曾有」だ。たろーちゃんはこれを「みぞうゆう」と読んだ。さすがに私もこんな読み方は聞いたこともない。しかし、読み仮名を問われれば迷いなく「みぞう」と書いても発音するときに「みぞう」とは読んでいなかった。「みぞーう」と発音しちゃっていたのである。どきどきするなあ、もう。えーっと、あれだあれ、他山の石を以て玉を攻(おさ)むべし。
 愚息は子どものくせに人が偉そうにしているのが気に喰わないというちょっぴり心配な反骨精神の持ち主である。総理の漢字間違い報道も大いに関心を持ち、報道に同調するつもりらしく食いついて見ていたのだが、報道で取り上げられた熟語のほとんどを正しく読むことができず、大いに自らを恥じ、落ち込んでいた。だーかーらー、勉強しろっつうの。
 今回の総理のミスに限らず、近年人気の学習関連クイズ番組などを見ているとオノレの漢字読み書き能力の低さに打ちのめされる。情けない。漢字検定準一級レベルの読みだけならまだしも、一級レベルとなると熟字訓などの特別な読みが多く、大学で日本文学をかじりかけてドロップアウトした私なんぞ読むにしても書くにしてもとてもとても太刀打ちできない。そんな中話題になっている本だけに、ムーブメントに乗っかって買ってみるのもいいかもしれない。楽しそうだ。漢字やことばというのは普段何気なくつかっていてもよく知らなかったりわかっていなかったりするものだからおもしろい。

これより先、がちがちに硬い漢字とことばのお話になります。しかも長文です。興味をお持ちの方のみクリックしてお進みください。


タグ: 漢字 ことば
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怪獣と物理! 収斂していくさまが気持ちいい 【山本弘『MM9』】 [本]




 話題が古いことは重々承知なのだが…。旧愛機VAIOちゃんがクラッシュする前から準備してきた記事なのでどうも捨てがたい。
 今年のノーベル賞、日本人受賞者が4人、とすんごいことになっている。そのうちお三方は物理学賞を受賞された。ニュースを見ても新聞の記事を読んでも、ウィキペディアの記事を読んでも、若いころの不勉強がたたってちんぷんかんぷんであるのが情けない。受賞の速報が出た日、勤め先から帰宅した家人に「ノーベル賞がすんごいことになってるよー。物理学賞が日本人3人も!」と、そこまではいえたものの、肝心の中身が伝えられない。
「CP対称性の破れ、とかなんとか…素粒子物理?」
 テレビのバラエティ番組などで時々見る伝言ゲームを笑えないお粗末さだ。

 何はともあれめでたい。
 このめでたいトピックに関連した本を読んだことがないかしら、とあさってみたがやはり苦手分野であるだけにストックがない。1冊だけ、素粒子物理を扱ったSF『神様のパズル』を読んだことがあったが、こちらはすでに紹介済みこれを読んだ愚息と、ノーベル賞のニュースを見ながら
「むげんー!!」
 と顔を見合わせてうなずきあっちゃったよ。

 他に何かないか、とあさり続けると、やっと1冊発見。こちらは素粒子物理ではないけれど、物理学の考え方の一つが取り上げられているということで無理やりトピック関連本にしてしまうのだ。


MM9

MM9

  • 作者: 山本 弘
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2007/12
  • メディア: 単行本



 この本、もんのすごく楽しい。カバーに

地震、台風などと同じく自然災害の一種として“怪獣災害”が存在する現代。有数の怪獣大国である日本では、怪獣対策のスペシャリスト集団「気象庁特異生物対策部」、略して「気特対」が日夜を問わず日本の防衛に駆け回っていた。
 (中略)
相次ぐ難局に立ち向かう気特対部員たちの活躍を描く、本格SF+怪獣小説!


 とある。
 このカバー裏の説明文は私のハートをずきゅーん、とぶち抜いたね。ゴジラ、ガメラ、同じジャンルに加えてよいものか迷うけれどウルトラマン。これらの特撮怪獣モノを観て育った者がこれを看過できようか。いや、スルーできまい。地球防衛軍じゃなくて気象庁なんだー、ふむー、とディティールが心の琴線に触れたが最後、読まずにいられない。
 怪獣が出てきてどしーん、がしゃーん、なんだろうなと考え、わくわくしながら読んだ。まず結論。この点においてイメージどおり。きっちり怪獣が出てきてどっしん、がっしゃん、と盛大にやっている。

 一気に読了後、ため息をついた。期待はいい意味で裏切られたのだなあ。想像以上に面白い怪獣SFであったよ。

 まず、設定がよい。怪獣災害が当たり前の破天荒な世界を裏づけるべくきっちり説明が書き込まれている。
 この小説には自然災害のひとつとして“怪獣災害”が存在する世界の日本がリアルに描かれている。タイトルの“MM”は「モンスター・マグニチュード」の略で怪獣の規模を表す単位。この“MM”の起源もきっちりがっちり書かれている。この手の細かさは世界観の説明として不可避であるが、ややもすればストーリーの勢いを殺しがちだ。しかし、作者の絶妙の匙加減で冗長にはなっていない。私のような「理科系の話はどうもちんぷんかんぷんで」という手合いであっても読める。うまいなあ。

 人間関係の書き込みが複雑すぎないところもよい。
 作者は、ストーリーのどこ、だれ、いつの部分にふくらみを持たせるかによっていくらでも複雑にできたのだろうと思う。しかし、どろどろしていないからこそテンポよく読めるという長所を拾うために潔く人間関係の描写をシンプルにしているように見える。読み終えて「そういえばこの人が主人公なのかと思ったけれど」と思うくらい。しかし、一人の心情にのみ踏み込まないことで、「気象庁特異生物対策部」という部署がチームとして機能するさまを堪能できる。これはチーム内で時にままならない事態に歯噛みし、時にこれぞという達成感を味わった経験を持つ身としては親近感を抱いた。ただ、「もうちょっと分厚くなってもいいからヒトの話も読みたかったなあ」と思わないでもない。

 そして素材の活かし方がよい。
 ここに至りやっと物理との接点に辿りつくわけだが、大変残念なことにストーリーの核心に深く関わるのでネタばれを忌避する方は記事のこの先をお読みにならないよう。

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未来を舞台に震災と復興を力強く清々しく、そしてリアルに [本]




 地震を描いた小説を立て続けに読んだ。順番は前後するが、まずはこちら。


復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/06/10
  • メディア: 文庫



復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/08/06
  • メディア: 文庫



復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/10
  • メディア: 文庫



 この作品、架空の未来を舞台にした震災と復興の物語。とてもおもしろい。近頃この小説家のSFがお気に入りなのだが、今回の『復活の地』でますます好きになった。

 話は、何の予兆もなく惑星レンカの首都トレンカを襲った地震から始まる。
 まず前提から説明しよう。
 地球から人類が旅立ち、宇宙に拡散した後に争いがあって地球は滅亡している。このことをきっかけにいったん科学や文明、特に星間飛行や通信の技術が失われたことによる孤星時代というものがあったことが伏線となっている。失われた星間飛行・通信技術が復元され、星間貿易が行われ、国際問題が星間レベルとなり列強と呼ばれる大国が出現している。惑星レンカはそういった星間貿易や国際政治に乗り遅れた辺境にあるが、星間飛行ネットワークの辺境における中継点にあたるため、星間パワーの力学上重視はされないものの軽視もされないという位置づけにある。
 科学技術が隆盛を極めて宇宙に乗り出した人類がいったん科学や文明を失うほど衰退するという設定、アシモフの「ファウンデーション」シリーズでも馴染み深い。テレビドラマのSFではひたすら進化進歩した人類が宇宙開拓に乗り出しちゃうポジティブでお祭りモードの未来を見せてくれるが、「いつか残されたパイを奪い合う時代になるに違いないのに」と気を揉みながら育ち、高度経済成長が翳ったころに大人になった私のような世代には受け入れやすい設定だ。何はともあれ、「ファウンデーション」シリーズにおいてはハリ・セルダン大先生ががんばったので文明は細々と保持されたけれど、『復活の地』の世界に心理歴史学はない。

 この小説の魅力はこうしたSF的背景ではない。
 惑星レンカは植民時にここに帝国を築いた高皇を国主とする立憲君主国。大陸の南側にある隣国ジャルーダ王国を属国として従え、目や髪色の違うジャルーダの民を強制連行し使役している。震災に襲われたのはレンカの帝都トレンカ。
 そう。これは1923年の関東大震災を下敷きに、行政、権力、経済、民衆、国際政治そして友愛と純愛が絡み合ったSF小説なのだ。

ここから怒涛のネタばれオンパレード。ネタばれ嫌いのお方はご注意あれ。


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痛快活劇である。けれど [本]




 一気に2冊読了。

笑う警官 (ハルキ文庫 さ 9-2)

笑う警官 (ハルキ文庫 さ 9-2)

  • 作者: 佐々木 譲
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 文庫




警察庁から来た男 (ハルキ文庫 さ 9-3)

警察庁から来た男 (ハルキ文庫 さ 9-3)

  • 作者: 佐々木 譲
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2008/05/15
  • メディア: 文庫



 北海道警察に素材を求めた痛快活劇である。一気に読了、と書いたが、一気に読めちゃうのである。とても楽しい。チームが一体となって事件が解決に向かう、緊迫感のある展開が余所見を許さないまっすぐな道筋となって読者をぐいぐい引き込んでくる。その勢いにのっかって読みすすめると大変快い。

 この2冊は道警シリーズ第一部、第二部と位置づけられているようだ。第一部『笑う警官』、読んでみて驚いた。まだ記憶に新しい現職警官の裏金問題で揺れた道警を舞台にした実際の事件をモチーフに、いや下敷きに、むしろそのまんま用いちゃっている(その事件後の設定であるが)。うわわ、こんなの読んじゃって怒られないかしらとひやひやしちゃうのだがもちろん誰にも怒られない。娯楽作品なのだ。第一部は警察幹部の不正を暴く警官を、組織を守るためと称して無理やり封じ込めようとする幹部に対抗して、かつての同僚がチームを結成して立ち上がるというもの。そして第二部『警察庁から来た男』は巧妙に隠されたノンキャリアの警官たちと暴力団との癒着を暴く。警察庁の監察官、ノンキャリアの警官である第一部の主人公、の2つの動きが重なり、最終的に同じ事件を張り合い気味にチーム化していく過程が描かれている。帯に書かれた「キャリアのプライドか、ノンキャリアの意地か。」というのはこの辺りを指しているのか。

 実際の事件も念頭にあるし、登場人物の役割がはっきりしているので読者は迷いなく「この人はいい人、この人は悪い人」と振り分けながら話に没入できる。そして、ストーリーはその役割の振り分けを裏切ることなく最後まで突っ走る。意外性は皆無。この2作のキモは主人公たちのチームワークとスピーディーなストーリー展開にある。

 読んでいて楽しい。楽しいのだが、ターゲットを絞り込んだ作品だと感じた。そして、おそらく私はターゲットから外れている。北海道警察の説明などは丁寧に書き込まれているので分かりにくい点はない。札幌の繁華街を中心とした土地の説明も丁寧だ。結婚来何度もかの地を訪れていても一人では出歩けない、さして土地勘のない私でも「ああ、あそこだ」と分かるくらいなので、札幌の観光で訪れたことのある人ならば、旅先で訪れた場所がドラマのロケ地になっている感覚で親しみを覚えるだろう。しかし、自分がターゲットではないと感じたのはこの点ではない。登場人物の造形が書き込まれた文章が分かりにくいのだ。このシリーズにおいてヒロインに位置づけられる小島百合がむんむんのセクシーキャラでもかわいいどじっ娘でもないのにこの違和感はなんだろう(この二つのタイプがヒロインだと、キャラクターの魅力以外で楽しみを見出さなければならず、私は身構えてしまう。個人的に好まないのだから仕方ない)。
 その違和感は男性の描写からくる。第一部第二部ともに主要人物は読者の好感を誘うように書き込まれているのだろう。私はそのつもりで読んだ。主人公格の佐伯は四十男。反骨精神の持ち主であると読める描写だが、見た目は髪を短く刈り込んでいて、多少無愛想ではあっても初対面の人からすると警官というより塾講師のような印象を与えるらしい。津久井は三十代半ば、女性にもてるらしいその男を描写するのに「脂気のない髪がいつもさわさわと風になびいていた」とある。脂気のない?
 実は、この「脂気」いうキーワードは第一部第二部を通して男性の描写においてけっこうな頻度で出てくる。なんとなく腑に落ちてきたが、「脂気のない髪」というのは要するにさらさらヘアのことなのだ、と理解できたのはずいぶん読みすすめてからだった。どうもこれは清潔度を表す言葉であるようだ。脂じみている、と書かれれば「うひょ、不潔な感じなのね」とすぐに分かるのだが、「脂気のない髪」で私が連想するのは貧相で粉っぽい感じが却って不潔な、覇気のない人物のイメージだ。作中でいかにも女性にもてそうな人物を、私の持つこの思い込みのせいで貧相な人物のようにイメージしてしまいそうになるのをぐっと抑えこみつつ脳内変換して読むという苦労はあった。いいオトコだったら脂も適度にのっていてほしいところだ。「脂じみている」(脂分過多)→いいオトコ(中庸)→「脂気がない」(脂分過少)、と私は思うのだが。しばしいいオトコと脂の相関関係について思いを馳せてしまったよ。まあ、この辺りの生理的感覚は個人的なものなので、他の読者にも共通の感懐であるかは不明である。
 そういえば、と私は思い出す。大人の男といえば昔は整髪料で髪をきっちり固めていたものだ。なんであんなくっさいものを毎朝頭につけるのかな、と子どもの頃不思議に思ったものであるが、子どもの感想など無関係に男はオンタイムになると頭髪をギトギトにして整髪料と体臭と仁丹が渾然一体となったにおいをむんむんと漂わせているのが当たり前だった。今はかっちりと髪を分けて固めている男性を見ることは少なくなったように思う。少なくともここ三十年の間に男性のオンタイムにおけるヘアスタイルの革命が起こっているようだ。初老の男性からすると、習慣や文化の違いのイメージがここに集約されるのかもしれない。

 同じ作家のほかの作品は読んでいないが、むやみに高いテンションのせりふといういわゆるライトノベルの特徴は見られないものの、この「道警シリーズ」2作については50代半ばから60代男性向けのライトノベルという印象を抱いた。身近でありながら接点は案外ない警察機構を舞台に社会問題も適度に取り入れつつ、読者がキャラクターへの感情移入もできるつくりだ。さらっと軽くテレビドラマを楽しむ感覚で読める。


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小説『神様のパズル』 [本]




 読書とは実は戦いであったらしい。愚息と奪い合いながら読んだ。


神様のパズル (ハルキ文庫)

神様のパズル (ハルキ文庫)

  • 作者: 機本 伸司
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫



 表紙がポップなイラストで飾られているので、ライトノベルのように見える。ライトノベルのすべてがそうではないのだが、明らかに誤った言葉遣いが散見される作品も中にはある。受験を経て言葉の覚えはじめ第二期とも言える、天然ボケ風味の楽しい言いまつがいをやらかす時期に入った愚息にはできればしっかりと言葉を覚えてほしい(正しい言葉遣いを覚えてこそ天然ボケキャラが活かせるのだ)。ライトノベルを禁じたりは決してしないけれど、今のところ一度母親である私が目を通した上で軽く注意するよう促してから渡すようにしている。映画化されるのが気になったか、友達の間で流行しているのか。今まではおとなしく私が読み終わるのを待っていた愚息だが、この『神様のパズル』に限っては待ちきれなかったらしい。そこで、奪い合いとなったわけだ。

 おもしろい。愚息が他のことをしている隙に奪って数ページ読みすすめ、何食わぬ顔をして返すというおとな気ないことを繰り返してまで読みきった。『神様のパズル』、ライトノベルかと思いきや、そうではない。素材を宇宙の創造に求めたエンターテイメント作品だ。

 主人公は卒業が危ぶまれるほど成績不振にあえぐ大学四年生の綿貫くん。ゼミを選ぶのもお目当ての女の子が入るからという脱力モノの理由なのだが、その子にろくに話しかけることもできないという自他共に認めるだめっぷりが際立つ。物理を専攻しているはずなのに全然分からないと言い切るあたり、理数系オンチの私などとても共感してしまう。その綿貫くんが、とにかく卒業して就職できればいいやと考えているところに、ゼミの教授から足下を見るかのごとく評価というにんじんをぶら下げられていろいろと無茶な要求をされるのだ。
 その要求のひとつが本作品のヒロイン、穂瑞沙羅華との出会いにつながる。このヒロイン、きらきらしいのは名前だけはない。母親が精子バンクから優秀な男性の精子を買って生み出した天才児なのだ。華々しく活躍し、注目を集め、特例措置で大学に飛び級で入学したのだが、ここしばらく不登校になってしまっている。沙羅華の理論を用いて建造された最先端実験施設の運用がうまくいっていないことも関係しているらしい。このヒロイン、天才児で美少女とまるでライトノベルのお約束のような優れた資質てんこ盛りの設定なのだが語り口調が「...なのだよ」「...たまえ」。しかも主人公のことを「綿さん」と呼ぶ。あ。穂瑞→ホミズ→ホーミズ→ホームズ、名前も合わせるとシャーロック・ホームズなのね。
 このコンビが「宇宙を作ることができるか」というテーマに挑み、(架空の)光子場理論、TOE(Theory of Everything)にたどりつき、そして...というお話。私なんぞがぐだぐだあらすじを書き連ねるより本作をお読みいただいたほうが早かろう。どうしてもあらすじを知りたいという向きには書店で巻末の解説をご覧になることをお勧めする。翻訳家でSF評論家の大森望氏が作品への愛あふれる解説の中ですっきりきっちり見せてくださる。

 現在読んでいる途中の愚息が
「難しいことが書いてあるんだけど、とてもおもしろい」
 というのだが、私も同様の感想を抱いた。
 作中、ゼミの発表、ディベートと物理学の理論がわんさか盛り込まれるが、基礎からして分からないと豪語する主人公の日記という体裁をとっているため、物理っておもしろそうだなあ、と一部分かったような気にさせられ、一部は分からなくても大丈夫だという気にさせられる。このあたり、落ちこぼれ学生が主人公という設定が活きた巧みな手法だ。
 物理をよく知る人からすれば不満の残る部分もあろう。私のように物理の授業は頭がぐるぐるしちゃってさっぱり、という人にはいっぱいいっぱいになりかねない内容でもあろう。ストーリーを楽しみたい向きには構成が直線的にも見えよう。しかし、本作が作者の第一作とは思えない筆力の高さだ。読後感もよい。そして、反面、処女作にふさわしい気合も感じる。どうシミュレートしても自滅に向かう生命体、そして宇宙。宇宙は本当に無から生じるのか。知性とは何なのか。なぜ自分は生まれたのか。たとえTOEにたどりついても物理だけで宇宙のすべてを説明できるわけではないという主人公たちの結論。ひとつのテーマが物理、数学、哲学と多くの道に分かれてそして大団円に収束していくさまがすがすがしい。あっさり描かれているあたり、主人公の大きな感動が伝わってくるという仕掛けでもあるが、ドの音は何ヘルツかという宿題や綿さんの卒論、駆け足になってしまっているように見えるほど、読み終わるのが惜しかった。

 中学一年生の愚息にはまだ難しい内容だと思う。でも、却って物理への興味がわくかもしれない。他はともかく読書のスピードについてはまだまだ愚息に譲れない(張り合ってどうする)ため私が先に読了したが、これはぜひ愚息に読んでほしいと久々に思えた小説だ。


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